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名古屋地方裁判所 平成8年(行ウ)36号 判決 1998年3月04日

名古屋市中村区栄生町一四番九号

原告

小出商会こと小出精一郎

右訴訟代理人弁護士

山本正男

戸田喬康

名古屋市中村区太閤三丁目四番一号

被告

名古屋中村税務署長 前島省三

右指定代理人

中山孝雄

戸苅敏

相良修

堀悟

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告が平成七年三月八日付けでした原告の平成三年分所得税の更正のうち、総所得金額八四五五万七〇八八円、税額三七四〇万〇八〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。

二  被告が平成七年三月八日付けでした原告の平成四年分所得税の更正のうち、総所得金額四七四六万六五二六円、税額一八八三万一七〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。

三  被告が平成七年三月八日付けでした原告の平成五年分所得税の更正のうち、総所得金額三七八九万八九〇二円、税額一四〇二万〇八〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。

第二事案の概要

一  争いがない事実

1  原告は、「小出商会」の屋号を使用して、五〇〇台を超える電気機器、土木建設用機械を保有し賃貸し、ときには顧客の求めに応じてそれらの機械を販売している。

2  原告は、平成三年から平成五年にかけて、賃貸業に使用している機械(以下「中古機械」という。)を別紙1ないし3のとおり、有償で譲渡した(以下、これらを「本件譲渡」という。)。その譲渡代金額及び原価の額は、別紙1ないし3のとおりである。

本件譲渡には、次の三つの態様のものが含まれている。すなわち、賃貸業に使用する新品の機械を購入する際の下取りとして譲渡したもの(別紙1ないし3にAと表示したもの)、中古機械ディーラーに売却したもの(別紙1ないし3にBと表示したもの)、賃借人の過失により破損した機械を損害賠償に代えて賃借人に売却したもの(別紙1にCと表示したもの)の三つである。

3  原告は、平成三年分ないし平成五年分の所得税について、別紙4のとおり、確定申告及び修正申告をした。

原告は、平成三年分ないし平成五年分の所得税の申告において、これらの各年度分の本件譲渡による所得を譲渡所得として申告した。また、原告は、平成三年分所得税の申告において、平成二年以前の年度において、事業所得に含めて申告していた中古機械の譲渡収入(五件で二二五万三九〇〇円)を、事業所得の収入金額から減算し譲渡所得の収入金額に加算して申告するとともに、これらの譲渡収入に係る必要経費を譲渡所得の必要経費に加算して申告した。

被告は、本件譲渡による所得は事業所得であり、また、平成二年以前の年度において事業所得に含めて申告していた中古機械の譲渡収入を平成三年の事業所得の収入金額から減算し同年の譲渡所得の収入金額に加算するとともに、当該収入に係る必要経費を同年の譲渡所得の必要経費に加算することは認められないとして、原告の平成三年ないし平成五年分の所得税について、平成七年三月八日付けで、別紙4のとおり、更正(以下「本件更正」という。)をした。

二  争点

所得税法二七条一項は、「事業所有とは、事業で政令で定めるものから生ずる所得(譲渡所得に該当するものを除く。)をいう。」と規定するところ、所得税法施行令六三条は、右事業の一つとして「対価を得て継続的に行う事業」を挙げている。

また、所得税法三三条一項は、「譲渡所得とは、資産の譲渡による所得をいう。」と規定し、同条二項において、それらの資産の譲渡による所得のうち「たな卸資産の譲渡その他営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡による所得」は、譲渡所得に含まない旨規定している。

本件の争点は、本件譲渡による所得は事業所得であるか譲渡所得であるか及び被告が本件譲渡による所得を譲渡所得あると認定して本件更正を行うことは「信義誠実の原則」又は「禁反言の原則」に反して許されないかどうかの二点であり、これらについての当事者の主張は、次のとおりである。

1  本件譲渡による所得は事業所得であるか譲渡所得であるかについて

(被告の主張)

(一) 所得税法三三条二項が「たな卸資産の譲渡」による所得を譲渡所得から除いているのは、その所得が保有期間中の値上がり益ではなく、性質上営利を目的とする事業活動の結果生ずるものであるからである。また、同項が「営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡」による所得を譲渡所得の対象から除外しているのは、譲渡所得が本来一時的、臨時的な資産の処分によって生ずる所得であって、経済的利益の所得を伴う事業活動(その事業は社会通念上事業と認められるべきものの一切をいい、商法上における商人の営業のごとく利潤追求を専らとするもののみに限らない。)によって、継続的に生ずる所得とは自らその性質を異にするがゆえに、この種の所得を除外した趣旨であると解される。「たな卸資産の譲渡」は「営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡」の典型的なものであるが、右のような立法趣旨からすると、「営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡」は、「たな卸資産の譲渡」と同様の性質を有するものに限られない。

(二) 本件譲渡は、次のような事情からすると、所得税施行令六三条が規定する「対価を得て継続的に行う事業」の中の一取引であり、所得税法三三条二項が規定する「営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡」ということができるから、本件譲渡による所得は、譲渡所得ではなく、事業所得である。

(1) 原告の事業は、機械類等の賃貸、販売、修理の各事業が、機械類の賃貸業を中心として、相互に関連し結びついている。

そして、機械類の賃貸業においては、最終的に機械をスクラップとして処分するか、新品の機械を取得する際の下取りとするか、適当な時期に相当な価格で売却するかが予定されている。

原告による中古機械の譲渡件数は、毎年一〇ないし二〇台程度と多くはないものの、毎年恒常的に取引が発生している。

(2) 原告が新品の機械を購入する際の下取りとして譲渡した中古機械は、型、年式は古いが、程度のよいものであり、下取り価格は、販売先のセールスマンとの交渉によって決まるが、当該機械の減価償却後の残存額よりもはるかに高いから、原告が新品の機械を購入する際の下取りとしての譲渡は、原告の事業活動の一環として行われている商行為の一つである

なお、仮に右下取り価格に新品の値引き分が含まれているとしても、それは、事業遂行の過程における必要経費縮減による利益であるから、原告の事業活動によって生じたものである。

(3) 原告は、営業案内のほかの各種媒体を通じて「売買」も扱っている旨の広告宣伝活動を行っており、原告が中古機械の販売も行っていることは業界に浸透している上、原告の機械の保守管理についての業界の信頼度が高いため、原告に対して、中古機械を売ってほしいという注文がある。原告は、それに応じて、中古機械を売却しているのであり、その価格も、当該機械の減価償却後の残存額よりもはるかに高く、そのままリースの用に供して年々収益を上げていくよりも売却した方が有利であると判断できる価格が設定されている。

したがって、中古機械ディーラーへの機械の売却は、原告の事業活動の一環として行われている商行為の一つである。

(4) 賃借人の過失による損害の発生及びそれに関する賠償金の授受は、賃貸業を営んでいる以上当然に起こり得る事業活動の一つである上、原告が賃借人の過失により破損した機械を損害賠償に代えて賃借人に売却する際には、将来の稼動見込みを念頭に置いた機械の価値に見合う価格で売却しているから、右売却は、原告の事業活動の一環として行われている商行為の一つである。

(原告の主張)

(一) 原告は、機械類の賃貸、不動産の賃貸、販売目的で取得した機械類の販売、機械の部品の販売、機械類の整備及び修理を業としているが、原告が営む事業の中では、収入の面でも、契約件数でも、その九五%以上を機械の賃貸が占めている。中古機械の譲渡件数は、平成三年ないし平成五年の各年においてそれぞれ一〇件にも満たず、全契約件数の中の一パーセントにも及ばない。また、平成三年ないし平成五年において原告が保有していた中古機械の台数は五〇〇台を上回っており、それに対して、中古機械の譲渡台数は一〇台にも満たず、きわめて少ない。

(二) 原告は、整備状態が良好な機械を多数保有しているが、これらはいずれも賃貸に供されている事業用資産であり、販売の目的で所有し整備を行っているものではない。

(三) 次のとおり、中古機械の譲渡は、偶発的な事情によって生じるものである。

(1) 新品の機械を購入する際の下取りとしての譲渡

原告は、整備状態が良好な機械を多数保有しているから、高額の新機種の導入を急がなくても、賃料を格安にすることで、新機種を導入した他業者との競争に十分対抗することができる。新機種を導入すると、高い賃料設定が必要とならざるを得ないので、営業上有利とはいい難い。

こうした状況の中、機械メーカーは原告に対し、賃貸に供されている古い年式の機械を下取りとして有利に買い受ける代わりに高価な新機種の購入を求めるというやり方で、原告への売込みを行うのが一般的である。新品の機械を値引きして売ると市場価格の値崩れを生ずるので、機械メーカーは、下取り機械の価格設定で、実質的な値引きをすることになる。

原告が、機械メーカーとの交渉の結果、賃貸機械として十分稼動し収入を挙げている中古機械を、機械メーカーの申出価格で手放すことを承知すると、中古機械の下取りとしての譲渡が行われる。

この種の譲渡は、いずれも取得価格と販売価格との差により利益をあげることを目的とする取引ではなく、新しい機械の購入に関する交渉の中で偶発的に生じるものである。

(2) 中古機械ディーラーへの売却

原告は、機械を賃貸目的で保有しているので、中古機械ディーラーから原告に対して機械の買受申出があっても、こうした申出を原則として断ることにしている。しかし、原告は、中古機械ディーラーから納得できる買受価格(将来の稼動見込みを念頭においた機械の価値に見合うもの)の提示があったときに初めて売買に応じることがある。

この種の譲渡は、原告としては、長い期間にわたって収益が期待できる賃貸に多大の未練を残しつつも、あえて売却に応ずるというものであるから、偶発的に生じるものである。

(3) 損害賠償に代わる売却

賃借人の過失により破損した機械の賃借人への売却は、たまたま発生した破損事故の損害填補を目的とするもので、偶発的に生じるものである。

(四)所得税法三三条二項の「営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡」は、その規定の定め方や体裁からいって、たな卸資産と同様の性質を有するもの、すなわち、売却を予定するものでなければならないというべきである。

しかるところ、原告は、右(二)のとおり機械を賃貸の目的で所有しており、売却を予定していないのであり、そのため、右(一)のとおり、中古機械の譲渡件数はきわめて少ない上、右(三)のとおり、それらは、偶発な事情によって生じるものばかりである。

したがって、本件譲渡は、「営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡」とはいえない。

(五) なお、現実に成立した売買における売買代金額と償却資産台帳上の残存簿価との間の差額は、長年にわたり原告が機械の点検、整備を怠らなかった結果、税法で定められた償却機関を経過しても、税法上期待されていた簿価よりも高い価値を維持することができた勤勉と節約努力のもたらしたものであって、そのような差額の存在を理由に、本件譲渡について「営利性」を認めることはできない。

2  被告が本件譲渡による所得を事業所得であると認定して本件更正を行うことは「信義誠実の原則」又は「禁反言の原則」に反して許されないかどうかについて

(原告の主張)

次のような事情があることからすると、被告が本件譲渡による所得を事業所得であると認定して本件更正を行うことは、「信義誠実の原則」又は「禁反言の原則」に反して許されない。

(一) 原告は、昭和二十五年以来、中古機械の譲渡による所得を譲渡所得として申告してきており、被告は、本件更正まで、その申告を正当なものとして是認してきた。昭和五一年分所得税の申告において、原告は、中古機械の譲渡による所得を、誤って事業所得として申告したので、それを譲渡所得とする更正の請求をしたところ、被告は、それを認めて更正した。その他、原告は、税務調査や申告の際に、税理士を通じて、度々、被告に対して、中古機械の譲渡による所得が譲渡所得であることの確認を求め、被告の了解を得ている。したがって、被告は、原告に対して、中古機械の譲渡による譲渡所得である旨の公の見解を表示したということができる。

(二) 原告は、三〇年間にわたって、右表示を信頼して、中古機械の譲渡を行ってきた。原告は、中古機械の譲渡に当たっては、その所得が譲渡所得であることを当然の前提としていたのであり、仮にそれが事業所得であれば、原告は、実際に譲渡した価格での譲渡はしなかった。

(三) 原告が中古機械の譲渡に所得が譲渡所得であると信じて行動してきたことについて、原告に責めに帰すべき事由はない。

(被告の主張)

(一) 「信義誠実の原則」又は「禁反言の原則」は、合法性又は課税の公平性を犠牲にしても納税者の表示に対する信頼を保護しなければならないとするものであるから、納税者の信頼に足るべき公的見解の表示のあることが前提となる。

納税申告は、納税者が所轄税務署長に納税申告書を提出することによって完了する行為であり、税務署長による申告書の受理及び申告税額の収納は、当該申告書の申告内容を何ら是認することを意味するものではない。そして、当該申告の適法性は、税務調査によって確認されることとなるが、税務調査は、納税者の申告内容のすべてについて適法性を確認することを目的としているとしても、常にそのような目的が達成されるとは限らない。したがって、原告の申告が是正されないできたからといって、そのことを「納税者の信頼に足るべき公的見解の表示」ということはできない。

昭和五一年分の所得について、原告は、一旦更正の請求をしたが、後にこれを取り下げ、右請求に係る部分を含んだ形で修正申告書を提出したものであって、被告が更正の請求を是認したことはない。

その他、税務調査や申告の際に、税務署の担当係官が、原告に対して、「納税者の信頼に足るべき公的見解の表示」をした事実はない。

(二) 納税者が誤った表示を信頼し、予期しない課税処分を受けたとしても、これによって経済的不利益を被らないのであれば、「信義誠実の原則」又は「禁反言の原則」を適用する必要はない。

しかるところ、本件譲渡によって得られた利益は決して少ないものではなく、原告が所得税額を考慮して安く譲渡したというような事実はないから、原告が誤った表示を信頼したために不利益を被ったということはない。

(三) したがって、本件更正が「信義誠実の原則」又は「禁反言の原則」に反するということはない。

第三当裁判所の判断

一  本件譲渡による所得は事業所得であるか譲渡所得であるかについて

1  所得税法三三条二項が定める「営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡」の意義について

譲渡所得に対する課税は、所有者の意思によらない外的要因による資産の増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他へ移転するのを機会に、これを清算して課税する趣旨のものである。

所得税法三三条二項は、たな卸資産の譲渡による所得譲渡所得から除いているが、その趣旨は、たな卸資産は、それを譲渡することによって利益を得ることを目的として所得されているものであり、その譲渡は事業活動そのものであるので、その譲渡による所得を、右のような資産の増加益としてではなく、事業による所得として課税することにある。

所得税法三三条二項は、更に「その他営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡」による所得を譲渡所得から除いているが、その趣旨は、たな卸資産の譲渡に当たらないものであっても、営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡による所得については、所有者の意思によらない資産の増加益としてではなく、事業による所得(事業所得)又はその他の所得(雑所得)として課税することが相当であるというこのにあり、このような立法趣旨や「その他の営利を目的とする」という規定の文言に照らすと、「営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡」が「たな卸資産の譲渡」と同様の性質を有していなければならないものと解することはできない。

2  そこで、以上のような観点から、本件譲渡について見る。

(一) 前記第二の一のとおり、原告は、五〇〇台を超える機械を保有して、それを賃貸する事業を行っており、本件譲渡の対象となった機械も、原告が賃貸業に使用していた機械である。

(二) 本件譲渡は、平成三年から平成五年までの間に毎年行われており、その台数も、平成三年が九台、平成四年が九台、平成五年が四台であり、類型別に見ても、新品の機械を購入するためのものや中古機械ディーラーに売却したものは、平成三年から平成五年までの各年において発生している。

また証拠(甲八、乙一一)と弁論の全趣旨によると、原告は、平成二年以前においても、毎年一定の台数の中古機械を譲渡する取引を行っており、その台数は、平成二年が八台、平成元年が一四台、昭和六三年が九台、昭和六二年が七台、昭和六一年が八台であったことが認められる。

そうすると、原告は、中古機械の譲渡を継続的に行ってきたものと認められる。

(三)(1) 証拠(甲二七、乙六、一四、原告本人)と弁論の全趣旨によると、各類型毎の原告が中古機械を譲渡するに至る事情は次のとおりであると認められる。

ア 新品の機械を購入する際の下取りとしての譲渡

機械メーカーは、原告に対し、賃貸に供されている古い年式の機械を下取りとして有利に買い受ける代わりに高価な新機種の購入を求めるというやり方で、原告への売込みを行う。新品の機械を値引きして売ると市場価格の値崩れを生ずるので、機械メーカーは、下取り機械の価格設定で、実質的な値引きをすることもある。

原告は、機械メーカーとの価格等についての交渉の結果、中古機械を賃貸機械として稼動し収入を挙げるよりも、それを下取りに出して新機種を導入した方が有利であると考えるときは、中古機械の下取りとしての譲渡を行う。

イ 中古機械ディーラーへの売却

原告は、中古機械ディーラーから中古機械の買受申出があっても、将来の稼動見込みを念頭においた機械の価値に見合う価格で買い受ける者にしか販売しない。

ウ 損害賠償に代わる売却

賃貸人の過失により破損した機械の賃借人への売却は、発生した破損事故の損害填補を目的とするもので、賃借人と交渉の上、破損した機械の価値に相当する価格で販売する。

(2) 右(1)認定の事実からすると、原告は、中古機械を譲渡する際には、それを賃貸し続けた場合における利益を考慮するなどして、できる限り経営上有利になるように売却しているものと認められ、また、中古機械を譲渡するかどうかの判断は、賃貸業における経営判断と密接に関連しているということができる。

(四) 以上述べたところを総合すると、原告による本件譲渡を含む中古機械の譲渡は、原告の賃貸業を中心とする事業の一環として、営利を目的として継続的に行われているものであると認められる。したがって、本件譲渡による所得は、所得税法三三条二項の「営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡」による所得に当たるから、譲渡所得ではない。

他方、本件譲渡は、所得税法施行令六三条が規定する「対価を得て継続的に行なう事業」の中の一取引に当たるから、事業所得であるということができる。

(五) なお、右(一)のとおり、原告は、五〇〇台を超える機械を保有して、それを賃貸する事業を行っているところ、原告が譲渡した中古機械の台数は、右(二)のとおりであるから、原告が譲渡した中古機械の台数は、原告が保有し賃貸している機械の台数に比べれば、きわめて少ないということができる。また、証拠(甲二七、乙六、原告本人)と弁論の全趣旨によると、平成三年から平成五年までの各年における原告の事業収入の九〇パーセント以上が機械の賃貸による収入であり、その他、原告には、販売目的で仕入れて販売した機械の譲渡による収入、機械部品の販売による収入及び修理による収入があるところ、別紙1ないし3記載の中古機械の譲渡による収入と右中古機械の譲渡以外による収入の合計額に対する右中古機械の譲渡による収入の割合は、別紙5のとおり小さいものと認められる。したがって、中古機械の譲渡が原告の事業の中に占める割合は小さいのであるが、譲渡所得から除かれるのは「営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡」であるから、それが納税者の事業全体に占める比率は問題ではなく、本件譲渡が右のとおり原告の事業の一環として営利を目的として継続的に行なわれている以上、本件譲渡による所得は譲渡所得ではなく事業所得とすべきものである。

また、本件譲渡の対象となった機械は、原告が賃貸を目的として保有していたものであるが、右1で述べたとおり「営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡」は「たな卸資産の譲渡」と同様の性質を有していなければならないものではないから、当該資産が売却目的で保有されていることは必要ではなく、原告が機械を賃貸を目的として保有していたとの事実も、本件譲渡を「営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡」と認めることの妨げとなるものではない。

さらに、証拠(甲六、二七)と弁論の全趣旨によると、本件譲渡の対象となった機械の償却資産台帳上の残存簿価は、別紙1ないし3の原価欄記載のとおりであることが認められるが、これは、別紙1ないし3記載の本件譲渡における代金額と大きな差がある。そして、証拠(乙六、原告本人)と弁論の全趣旨によると、原告は、機械を屋外に放置するというようなことをせず、機械の整備、点検を十分に行っているため、原告が保有する機械は、税法で定められた償却期間を経過しても、税法上期待されていた簿価よりも高い価値を維持することができることが認められる。そうすると、原告が本件譲渡によって機械を簿価よりもはるかに高額で売却することができたのは、原告が機械の点検、整備を行っていたことによるから、本件譲渡による所得は、所有者の意思によらない外的要因による増加益というよりも、原告の事業活動によって生じた所得と見ることが相当であり、この点からしても、本件譲渡による所得は、譲渡所得ではなく、事業所得とすることが相当である。

二  被告が本件譲渡による所得を事業所得であると認定して本件更正を行うことは「信義誠実の原則」又は「禁反言の原則」に反して許されないかどうかについて

1  租税法規に適合する課税処分について、法の一般原理である「信義誠実の原則」又は「禁反言の原則」の適用により、右課税処分を違法なものとして取り消すことができる場合があるとしても、法律による行政の原理なかんずく租税法律主義の原理が貫かれるべき租税法律関係においては、右法理の適用については慎重でなければならず、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れせしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合に、初めて右法理の適用の是非を考えるべきものである。そして、右特別の事情が存するかどうかの判断に当たっては、少なくとも、税務官庁が納税者に対して信頼の対象となる公的見解を表示したことにより、納税者がその表示を信頼しその信頼に基づいて行動したところ、のちに右表示に反する課税処分が行われ、そのために納税者が経済的不利益を受けることになったものであるかどうか、また、税務官庁の右表示を信頼しその信頼に基づいて行動したことについて納税者の責めに帰すべき事由がないかどうかという点の考慮は不可欠である。

2  そこで、以上のような観点から、本件更正について見る。

(一) 信頼対象となる公的見解の表示について

証拠(甲七の一、二、甲二七、原告本人)と弁論の全趣旨によると、原告は、長年にわたって、中古機械の譲渡による所得を譲渡所得として所得税の申告をし、申告税額を納付してきたこと、原告は、昭和五一年の所得税の申告において、中古機械の譲渡による所得を事業所得として申告したものがあったため、それを譲渡所得とする更正の請求をしたが、その後右更正の請求を取り下げ、右更正の請求の内容を含む修正申告をしたこと、原告は、本件更正より前には、中古機械の譲渡による所得を事業所得とする更正処分を受けたことがないこと、以上の各事実が認められる。

ところで、納税申告は、納税者が所轄税務署長に納税申告署を提出する事によつて完了する行為であり、税務署長による申告書の受理及び申告税額の収納は、当該申告書の申告内容を是認することを何ら意味するものではないし、その後更正処分がされなかったからといって、それは事実上是正されなかったというにすぎず、当該申告書の申告内容を是認する旨の公的見解が表示されたということはできない。したがって、右認定のとおり、原告が中古機械の譲渡による所得を譲渡所得として所得税の申告をし、申告税額を納付してきており、更正処分がされなかった事実があったとしても、そのことによって、信頼の対象となる公的見解の表示があったものということはできない。昭和五一年の所得税についても、最終的には右認定のとおり修正申告がされたのであるから、他の年度と同様、原告が中古機械の譲渡による所得を譲渡所得として所得税の申告をし、更正処分がされなかったにすぎないのであって、信頼の対象となる公的見解の表示があったものということはできない。

原告は、税務調査や申告の際に、税理士を通じて、度々、被告に対して、中古機械の譲渡による所得が譲渡所得であることの確認を求め、被告の了解を得ているとも主張するが、その具体的な事実関係、すなわち、税務著の誰に対して、どのような状況において、どのような内容の確認を求め、どのような回答があったという点に関する具体的な事実関係についての主張、立証はないから、信頼の対象となる公的見解の表示があったものと認めることはできない。

その他、信頼の対象となる公的見解の表示がされたものとすべき事実は認められない。

信頼の対象となる公的見解の表示がされたとは認められない以上、本件更正が「信義誠実の原則」又は「禁反言の原則」に反することはない。

(二) 原告が被った不利益について

原告は、中古機械の譲渡に当たっては、その所得が譲渡所得であることを当然の前提としていたのであり、仮にそれが事業所得であれば、原告は、実際に譲渡した価格での譲渡はしなかったと主張する。

しかし、既に認定したとおり、原告の中古機械の売却代金額は、簿価をはるかに上回る高額なものである上、原告が中古機械を売却するに当たり、それによって得た所得が事業所得はなく譲渡所得に当たることを考慮して、売却するかどうかやその価格を決定していたことを認めるに足りる証拠もないから、中古機械の譲渡による所得が事業所得であれば、原告は、実際に譲渡した価格での譲渡はしなかったものとまでは認められない。

したがって、原告が右主張に係る不利益を被ったとは認められない。

その他、原告が中古機械の譲渡による所得が譲渡所得であると信じたことによって不利益を被ったものとすべき事実を認めることはできない。

(三) よって、本件更正が「信義誠実の原則」又は「禁反言の原則」に反するということはできない。

三  原告の総所得金額及び税額並びに本件更正及び本件賦課決定の適法性について

1  平成三年分の総所得金額及び税額

(一) 総所得金額 八七七三万六〇三二円

原告の平成三年分の総所得金額は、次の(1)ないし(3)の金額の合計額から(4)の金額を差し引いた金額である(次の(2)及び(3)の各金額並びに次の(4)の譲渡損失が生じたことは、当事者間に争いがない。)。

(1) 事業所得の金額 五九四九万二八七一円

右金額は、原告が平成七年二月二〇日に被告に提出した平成三年分の所得税の修正申告書に記載された事業所得の金額五二〇〇万三二二五円(この金額は当事者間に争いがない。)に、<1>の金額を加算し、<2>の金額を控除した額である。

<1> 収入金額に加算する金額 八八四万六四二六円

右金額は、次のア及びイの金額の合計額である(イの金額を加算すべきことについては、当事者間に争いがない。)。

ア 別紙1記載の中古機械の譲渡収入 六五九万二五二六円

イ 決算調整として収入金額から減算した額 二二五万三九〇〇円

<2> 必要経費に加算する金額 一三五万六七八〇円

右金額は、右<1>のアの譲渡収入に対応する別紙1記載の取得原価である。

(2) 不動産所得の金額 二五三三万三三四三円

(3) 給与所得の金額 二九六万一〇〇〇円

(4) 譲渡損失の金額 五万一一八二円

右金額は、車両の譲渡収入三万一〇六八円から必要経費八万二二五〇円を控除して算出された譲渡損失の額である。

(二) 所得控除の額 一六〇万八一六八円(この金額は当事者間に争いがない。)

(三) 課税総所得金額 八六一二万七〇〇〇円

右金額は、総所得金額八七七三万六〇三二円から所得控除の額一六〇万八一六八円を控除した金額の一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた金額である。

(四) 納付すべき税額 三八九九万〇三〇〇円

右金額は、課税総所得金額に所得税法八九条所定の税率を乗じて算出した税額三九一六万三五〇〇円から、源泉徴収税額一七万三二〇〇円を差し引いた金額である。

2  平成四年分の総所得金額及び税額

(一) 総所得金額 五一〇六万七五二六円

原告の平成四年分の総所得金額は、次の(1)ないし(3)の金額の合計額である(次の(2)及び(3)の金額は、当事者間に争いがない。)

(1) 事業所得の金額 一九七二万七七四二円

右金額は、原告が平成七年二月二〇日に被告に提出した平成四年分の所得税の修正申告書に記載された事業所得の金額一三〇二万五七四二円(この金額は当事者間に争いがない。)に、<1>の金額を加算し<2>の金額を控除した額である。

<1> 別紙2記載の中古機械の譲渡収入 七七五万円

<2> <1>の譲渡収入に対応する別紙2記載の取得原価 一〇四万八〇〇〇円

(2) 不動産所得の金額 二八一九万六三八四円

(3) 給与所得の金額 三一四万三四〇〇円

(二) 所得控除の額 一六二万〇一六六円(この金額は当事者間に争いがない。)

(三) 課税総所得金額 四九四四万七〇〇〇円

右金額は、総所得金額五一〇六万七五二六円から所得控除の額一六二万〇一六六円を控除した金額の一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた金額である。

(四) 納付すべき税額 二〇六三万二二〇〇円

右金額は、課税総所得金額に所得税法八九条所定の税率を乗じて算出した税額二〇八二万三五〇〇円から、源泉徴収税額一九万一三〇〇円を差し引いた金額である。

3  平成五年分の総所得金額及び税額

(一) 総所得金額 三八七九万四九〇二円

原告の平成五年分の総所得金額は、次の(1)ないし(3)の金額の合計額である(次の(2)及び(3)の各金額は、当事者間に争いがない。)。

(1) 事業所得の金額 六四八万一二五〇円

右金額は、原告が平成七年二月二〇日に被告に提出した平成五年分の所得税の修正申告書に記載された事業所得の金額五一八万九二五〇円(この金額は当事者間に争いがない。)に、<1>の金額を加算し<2>の金額を控除した額である。

<1> 別紙3記載の中古機械の譲渡収入 一四五万四〇〇〇円

<2> <1>の譲渡収入に対応する別紙3記載の取得原価 一六万二〇〇〇円

(2) 不動産所得の金額 二八九八万七八五二円

(3) 給与所得の金額 三三二万五八〇〇円

(二) 所得控除の額 一六三万八一三四円(この金額は当事者間に争いがない。)

(三) 課税総所得金額 三七一五万六〇〇〇円

右金額は、総所得金額三八七九万四九〇二円から所得控除の額一六三万八一三二円を控除した金額の一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた金額である。

(四) 納付すべき税額 一四四六万八八〇〇円

右金額は、課税総所得金額に所得税法八九条所定の税率を乗じて算出した税額一四六七万八〇〇〇円から、源泉徴収税額二〇万九二〇〇円を差し引いた金額である。

4  本件更正の適法性

原告の本件係争各年分の納付すべき税額は、右1ないし3のとおりであるところ、いずれの金額も本件更正の金額と同額であるから、本件更正は適法である。

5  本件賦課決定の適法性

本件賦課決定は、本件更正より納付すべきこととなった税額を基礎として国税通則法六五条一項の規定により計算された適法なものであると認められる。

四  よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 野田武明 裁判官 森義之 裁判官 鈴木和典)

別紙1

中古機械の譲渡明細(平成3年分)

<省略>

別紙2

中古機械の譲渡明細(平成4年分)

<省略>

別紙3

中古機械の譲渡明細(平成5年分)

<省略>

別紙4

<省略>

別紙5

<省略>

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